噂のヤマトナデシコ

始動 〜アリオンの場合〜


フェルナンドは先程のアルバムを持ってアリオンの元へ向かっていた。
自分でさえ騙された幼きフォルカの写真。それならばアリオンにも分かるまいと。
打ち砕かれた甘酸っぱい初恋の腹いせをしたいというのも大いにあったのだが。


「アリオン」
「ハニー!俺に会いに来てくれたの?」

アリオンの部屋に入った途端、満面の笑みと嬉しそうな声で迎えられる。

「違う。いいからこれを見ろ」

一言で否定するとフェルナンドはアリオンの都合のいい思考にため息をつきながら、本題であるアルバムを差し出す。

「アルバム?まさかフェルちゃんの子供のころのお宝写真が!?」
「ええい!俺の写真は見るな!これだ、これ!!」

目をキラキラさせてアルバムを奪い取ろうとするアリオンを制止し、例の写真を開いて見せる。
「どれどれ…うひょ〜可愛い女の子だな〜♪」
「…やっぱりな」

案の定、アリオンはこの写真の人物が女の子だと思い込んでいるようである。

「これだけの美少女なら、成長したらきっとボンキュッボンのナイスバディだぜ?」
「子供の頃の写真だけで何故体型まで想像する」


アリオンの暴走する妄想にため息で応える。だがアリオンは

「で、この写真がどう…あー!!ま、まさか…」

急に大きな声をあげたかと思うと、フェルナンドと写真を見比べ今にも泣きそうな顔で

「まさか…フェルちゃんのフィアンセとか?!」
「ち、違う!馬鹿を言うな!!」

アリオンの突飛な発言に真っ赤になって否定する。それでも尚勘違いをしたままのアリオン、次に発した言葉は

「じゃあ初恋の相手とか!?」
「…」

そう言われてフェルナンドも口をつぐむ。
それは限りなく真実である。先程の甘酸っぱい想い…
だがその相手は誰よりも近しい双子の親友だったのだ…。






「そりゃあ可愛いもんなあ、こんな美少女ならフェルちゃんだって…。あー無理だ!俺じゃ勝てない!!」

一人で勝手に盛り上がって大騒ぎするアリオンを見ながらぽそりと呟く。

「初恋になる前に打ち砕かれたがな…」
「へ?」

言葉の意味がわからず疑問顔でフェルナンドへ視線を移したアリオン。
フェルナンドはそんなアリオンの手を引いて

「来い、その写真の主に会わせてやる」
さっさと歩き出す。

「え?ウソ?いるの!?」
引っ張られながらまだ気が気で無いようなアリオン。全く気付いてない様子にため息まじりにフェルナンドは答える。

「いるも何も、貴様もよく知っている人物だ」
「え〜修羅界にそんな美女いたっけか?
メイシスでも無いし…」
「いいから黙ってついて来い!」

ぶつぶつ呟きながらよたよたついて来るアリオンを引っ張って、たどり着いたのは…。



「…ここ、フォルカの部屋じゃね?」


美少女の元に連れて来られると思っていたアリオンは大いに疑問顔である。

「ああそうだ、
フォルカ、邪魔するぞ」

フェルナンドが扉を開けば、フォルカはたんすの前に座って何かをじっと見つめていた。

「ああフェルナンド、それにアリオン」
「よっ、フォルカ…って何してんの?」

挨拶を交わしながら、アリオンもフォルカの手に持つ物が気になったらしい。
フォルカは二人を見てにこりと笑うと

「懐かしくなって探してみたら、やっぱり兄さん残していてくれたんだ。ほら」
手に持っていたものを広げてみせる。それは…






「女物の着物??」

鮮やかな赤色に錦糸の模様、遊ぶ蝶をあしらった柄も美しい、立派な舞衣装であった。

「兄さん…そんなものまで…」

思わず頬染めて頭を抱えるフェルナンド。アリオンはまだ状況がわからないといった感じて二人を見比べているが

「さすがにもう小さくて着れないな」
フォルカは着物を身体に合わせてみながら

「!?」

ふわり、と足を踏み出し、優雅に舞い始める。

「こ、これは…」

しなやかにたおやかに、蝶が舞うかのようなその優美な姿…
アリオンも思わず言葉をなくして見入ってしまう。

「…どうだ、分かったか?」

見とれ、頬染めて、フェルナンドの言葉にただ黙って頷くしかできない。
そう、まさにあの写真と重なって見える、フォルカの雅な舞姿。美少女…だと思っていたその人物の正体が間違いなくこの漢な
のだと、衝撃の事実にしばし放心状態に陥る。
幼なき頃の写真にこうも見事に騙されるとは…


「…」

…しかし、たくましい身体で尚優雅な舞に見とれているうちに、アリオンの中で悪戯心が芽吹く。
ほうけていた顔が悪戯っぽい笑みに変わり、くくっと楽しそうに喉の奥で楽しそうに笑う。

「…何をにやついてる?」
「いや何、いいこと思い付いたのさ。ちょっと耳貸せよ」

フェルナンドに気味悪げに睨まれて、笑いをこらえながらそっと耳打ちする。

「ん?…!本気か貴様!?」

耳打ちされた内容に驚くフェルナンド

「いいじゃん、お前だって気になるだろ?」
笑顔のアリオン。
「…それは…まあ…」

しかしフェルナンドもどうやら誘惑に勝てなかったようである。口ごもりながらも、もう怒鳴ったり止めたりもしないようだ
った。

「こりゃ楽しくなってきたぞ♪」

まだ懐かしむように舞を続けるフォルカを眺めながら、にやりと笑うアリオン。
そして壮大な悪戯が幕を開けるのだった…




=つづく=



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