フォルカが治める新たな修羅界もようやく落ち着いてきたころ。
新しい世界になって初めての正月を彼らは迎えていた。
フェルナンドの手には一冊のアルバム、大掃除をした際に見つけた古いアルバムだ。
ページをめくれば幼き日の自分とフォルカ、そして兄さんの笑顔。
「兄さん…」
先の大戦で命を落とした兄を悼みながらさらにページをめくる。と…
「…んん?!」
一枚の写真が目に止まる。
鮮やかな深紅の舞衣装に身を包んだ見慣れない美少女が、花のような微笑みを浮かべこちらを見つめている。
「だ、誰だ!?」
自分達のアルバムに写っている以上、知らない人物なはずは無い。しかしこんな美少女に覚えは無く…。
大きな瞳にぽってり眉も愛らしく、小さな手に舞扇を携えた優雅な装いの美少女…。

「…かわいい…」
フェルナンドは困惑した、柄にもなく自分の中に沸き上がる甘酸っぱい気持ちに、一体これは誰なのか?
このアルバムの持ち主、兄さんなら知っているはず、しかし兄はもう…
「は、そうだ…フォルカなら分かるかもしれん。」
昔のこともよく覚えているフォルカのことだ、きっとこの美少女のことも分かるに違いない。
フェルナンドは思わず駆け出していた、写真の幼き美少女が今はどんなに美人に成長しているのか甘い妄想を抱きながら…
++++++++++
「フォルカー!!」
「フェルナンド?そんなに慌ててどうした。」
息せき切ってフォルカの元に訪れたフェルナンド。
部屋の正月飾りを整えていたフォルカは何事かと目を丸くしてフェルナンドを見つめる。
「これを見てくれ。」
フェルナンドはつかつかと歩み寄ると先急ぐようにアルバムを開いて見せる。
あの花の笑みの美少女の写っている写真を…
「ああ、この写真は…」
その写真を見てフォルカは懐かしむように目を細める。
「知ってるのか?!」
フェルナンドの胸がドキドキと早鐘を打つ。
「ああ、懐かしいな」
「いったい誰なんだ、どこにいたんだ?」
フォルカの反応に焦るように問いただす。
「フェルナンドが外に遊びに行っていた時だな。」
「くっ、俺のいない間に…」
家にいれば逢えたのか…フェルナンドは悔しさに苦い思いを噛み締める。そんなフェルナンドをよそにフォルカは嬉しそうに写真
に見入って呟く。
「兄さんに着付けてもらって…」
「…ん?」
フォルカの言葉の示す意味が分からずフェルナンドは眉をしかめる。
「指導してもらったものだ、本当に懐かしい…」
そこまで聞いてある疑念が浮かぶ。・・・まさか…
「ちょっと待て、…もう一度聞くが、これは誰なんだ?」
フォルカはきょとんとして答える。
「?これは、俺だが…」
「なっ!?」
淡い初恋が音をたてて崩れ落ちる。
生まれてはじめて甘酸っぱいときめきを覚えたこの美少女がフォルカ!?…全く気づかなかった……
「まだ少し覚えていると思う、こうだったか」
フォルカは近くにあった正月飾りの扇を手に取ると、しなやかな身のこなしで舞い始める。
「…!」

その姿は思わず目を奪われる優雅さ、今は羽織り袴だがこれが舞衣装ならそれこそ天女のように見えることだろう。
舞ううちに幼き頃を思い出したのか、ふと嬉しそうに微笑むフォルカ。
「ふふ、懐かしいな…兄さん…」
「…間違いない…」
呟くフェルナンド。そう、その可憐な笑みは写真と何一つ変わらない。花の微笑み。
自分が心奪われたのは、いつも傍にいた双子の親友だったとは。
フェルナンドは今になってようやく写真の正体に気付いたこと、そして轟速で粉砕された甘酸っぱい初恋に、
しばらく愕然としながらフォルカの舞に見とれていることしか出来なかった・・・
=つづく=
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