〜廊下〜
三人は幽霊の目撃情報があったという一際長くて暗い廊下を歩いていた。
「…俺の後ろを歩くなよ?」
フェルナンドがぎろりとアリオンを睨む。以前に夜の廊下でおどかされたことを根に持ってるらしい。
「そんな怖い顔するなよな〜何にもしないって!」
「だいたい今回の事件もまた貴様の仕業かもしれんしな。」
「まだ疑ってんのかよ、ヒドイな〜。
幽霊ちゃん、どうか出てきて俺様の疑いをはらして。」
わざとらしく泣き真似をするアリオンにフェルナンドは冷ややかな視線を投げる。その時、
「…?!二人とも、静かに!」
フォルカの声に二人ともおしゃべりをぴたりと止める。三人の間に緊張が走る。
すっと周囲の温度が下がり、三人の目前に赤い火の玉がゆらりと姿を現す。
「ほ、ほら見ろ!!俺じゃなかっただろうが!!」
アリオンが声を裏返しながら火の玉を指差しわめく。
「だったらあれはなんなんだよ!?」
フェルナンドも混乱気味に声を荒げている。
「知るかっ!」
アリオンとフェルナンドが騒いでるうちに火の玉は廊下の奥へと動き出す。
「追うぞ!」
フォルカがすぐに火の玉を追って走り出す。
「お、おい!待てよフォルカ!」
「わー!置いてかないでくれ!!」
慌てて続く二人。火の玉は三人を導くように転空魔城の奥へ奥へ…
「はっ!ここは…」
火の玉がすっと扉の向こうに消える。
「ここは…王の間!?」
火の玉が飛び込んだ扉、それは王の間に続く扉だった。
フォルカは扉を真っすぐに見据え、後ろの二人は不安げに目を見合わせている。
そしてフォルカが扉に手をかけ…
「お、おいフォルカ!
行くのかよ…」
アリオンが戸惑い気味に尋ねるが、
「もちろんだ。俺は…確かめねばならない。」
決意のこもった声ではっきりと答えると、扉を開き中に足を踏み入れる。
「……。」
部屋の中には誰もいない…。
三人とも息を飲んで様子を伺う。
その時、部屋の中央から生暖かい風が吹いてきたかと思うと、揺らぐ炎が現れ人の姿を形作った。
『で、で、出たあぁああぁ!!!』
姿を現した幽霊にフェルナンドとアリオンは恐怖に大声を上げ思わず抱き合って飛び上がる。そのまま慌てて逃げようとして二人で
もつれあって倒れてしまう。
「おい、のしかかるな!!」
「やめろよ、引っ張るなっ…イテテ!」
二人がドタバタ騒ぎをしてるのをよそに、フォルカは真っすぐ幽霊を見つめて口を開く。
「兄さん…?」
『!?』
恐怖に我を忘れていた二人がびっくりして振り返る。
すると、フォルカの目の前で幽霊のぼんやりとした輪郭がはっきりとしたものになり、現れたのは懐かしい姿…。
「フォルカ…」
聞き慣れた優しい声。
「兄さん!やっぱり…兄さんだったのか。」
愛しい兄の微笑みをまた見ることが出来て、嬉しくて涙ぐむフォルカ。
「本当に…兄さんなのか?!」
フェルナンドも懐かしさと驚きを隠せず、立ち上がって向き直りアルティスを見つめる。
アルティスは優しい眼差しを向けて頷く。
「お、おい…アルティスお前…足…」
アリオンがどもりながら、アルティスの足元を見つめている。
「…?!」
フェルナンドも視線を足元に落とし驚愕する。
目の前に立つアルティスには膝から下が無いのだ。
「そうだな、私は一度死んだ。今の私は…いわゆる幽霊というやつだ。」
そう言ってアルティスは苦笑する。
「では…今までの幽霊騒ぎも、もしかして…」
「ああ、私だ。」
今まであれだけ騒がされた幽霊の正体に驚愕を隠せない三人。アルティスがさらに説明する。
「この姿を保てるようになるまで時間がかかってな。それでずいぶん人を驚かせてしまったようだ、すまない。」
優しく微笑むと、今度は少し厳しい瞳でフェルナンドに声をかける。
「そうだ、フェルナンド。」
「は、はい!」
「幽霊の存在に恐怖するあまり私の正体を見抜けぬとは…修行が足りんぞ。」
「はい、す…すみません…」
指摘されて顔を赤くして恐縮する。
「これからも精進するのだぞ。」
穏やかな笑みでそう言うアルティスはどことなく幸せそうで…。
「でも兄さん…どうしてこんな…」
幽霊になって留まることに?
フォルカが尋ねようとした瞬間すごい剣幕で
「可愛いお前を残して逝けないからだ!!」
「に、兄さん…」
|