− 恋人達の日 −




「笹か?」
「ああ」

外から帰ってきたフェルナンドは見慣れない様子に少々驚きながら、フォルカと笹を見比べる。
しかしこの笹、いやに…

「色鮮やかだな…なんだこれは。」
「地球の習慣で、七夕飾りというそうだ。」

そう答えると、さらに色紙やら何やらを飾り付けている。

「それでわざわざ笹を用意したのか。」
「アリオンが持ってきて、七夕のことを教えてくれたんだ。俺は飾り付けしか…」
「アリオン!?アイツは今どこにいるんだ?」
アリオン、彼の名前を聞いた途端すごい剣幕で聞き返す。
「さあ…この笹と飾りを持って来てからまたどこかに行ってしまったな…。」
「ちっ…どういうつもりだ…」

ここ最近、アリオンは全くフェルナンドの前に姿を見せていない。それもフェルナンドの前に『だけ』である。
フォルカの前には現れるというのに…一体何の考えがあって自分を避けるのか。
…まさか?いや、それはあるまい…なんて、一人悶々としていると…

「そうだ、フェルナンド、これ…」
「…なんだ、この紙切れは?」
手渡された青色の細長い色紙を眺める。
「この短冊に願い事を書いて笹に飾ると願いが叶うそうだ。」
「…」

願い事…



+++++++




「ん…?」

部屋に戻ったフェルナンドは机の上に何か置かれていることに気付く。何やら布の包みと
「…手紙?…!」
アリオンからの置き手紙だ。その衣装を着て指定の時刻にある場所に来てくれと…。この包みは服なのか。

「ったく、何を企んでやがる…」

アリオンの指示に従うのは釈だが、とにかく一発殴ってやりたい。フェルナンドは包みを開け…
「はァッ!?なんだこれは!!」




+++++++



「…ここか?」

夕刻、もはや辺りはすっかり暗くなっていて。星のよく見える小高い丘の上にフェルナンドは来ていた。
一体こんなところに呼び出して何のつもりか。大方ろくでもない理由なんだろう…いいから早く姿を見せたらどうなのか。
もう…ずっと見てないぞ、お前の顔…


「貴方の願い、叶えに来ましたよ。俺の織り姫」
「アリオン!貴様…!?」

背中から聞こえる聞き慣れたあの声。今だ、一発殴ってやる!拳を構え振り返る…しかし、アリオンの姿を見た途端そ の気も失せてしまう。

「…なんだその珍妙な姿は…」

どうにも派手な着物のようなもので着飾っているアリオン。
「彦星だよ。
せっかくフェルちゃんの衣装も用意したのに、着て来てくれなかったの?」
「こんなものが着れるかッッ!!」
アリオンの言葉に怒鳴って荷物を投げつける。それはピンクもピンク、どピンク色のひらひらな衣装…
「せっかく七夕なんだからさ〜フェルナンドも織り姫衣装着てよ、絶対似合うって。」
「似合ってたまるか!!」

食い下がるアリオンに真っ赤になって怒鳴ると、頭に血が上ったままにまくしたてる。

「だいたい、貴様には言いたいことが山ほどあるぞ!俺の前から姿を消したり、いきなり変な衣装を押し付けてこんな所 に呼び出すとは、どういう要件だ?!」

怒った顔のフェルナンドとは対称的にアリオンは楽しそうにくすくす笑って。

「た・な・ば・た♪」
「…なんだと?」
「だから七夕だよ、恋人達の日。…フォルカから聞かなかったか?七夕の物語。」
「…」

確かに、聞いた。七夕は…
「織り姫と彦星が年に一度再会できると…」
フォルカの言っていたことを思い出す。


『人が人を愛し、星に想いを馳せるのは、どこの世界でも同じなのだな。』


愛し合う…者達…




「そう、愛しい人との再会…そんな織り姫と彦星の気持ちを俺達も味わおうって企画だったんだけど…どう?」
「…」

悪戯っぽい笑顔で言い放ち楽しそうに笑っているアリオン。呆れた…そのためだけにここまで用意したというのか。ここ まで…本当に寂しかったというのに。

「…それで、どこまで味わうつもりなんだ?」
「どこまで…って?」
「今日一日あったらまた姿を消す気か?貴様は…」
一年に一度のつもりじゃあるまいな?

「まさか!そんなの俺が耐えられないぜ。」
アリオンは苦笑すると、フェルナンドを抱き寄せる。
「俺達はずっと一緒だぜ…見ろよ、この星空。
まるで俺達の愛みたいに美しく輝いてるぜ。」
ぺらぺらと喋りまくるアリオン。こんな軽口ばかり…

「…よくもそんなクサイ台詞が吐けるな…」

でも頬が染まっているフェルナンド。なぜこんな漢にときめきなど感じてしまうのか。

「照れんなよ。ほら、今日は本当に天の川が綺麗に見える…」

つられて見上げた星空は本当に綺麗で…そっとアリオンに寄り添う。



笹の葉に飾った青い短冊が夜風に揺れた…。











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