− 春一番をお前と・・・ −





季節は冬の終わり、段々と毎日暖かくなり、日が長くなる。けれど夜はまだ寒い…。
そんな夜、フェルナンドはまだ眠れずに起きていた。彼には珍しく、なんとなく考え事をしながら。

「…あいつ、今度はいつ戻ってくるんだ?」

それは、恋人…アリオンのこと。
アリオンは数日前にいつものようにふらっと姿を消して、まだ帰ってこない。
この放浪癖に最初こそ悩まされたフェルナンドだが最近はだいぶ慣れてきた。

「どうせ後一週間くらいは帰ってこないんだろ。」

呟いて不満そうに鼻をならす。なんだか慣れてきた自分がむしろ嫌でため息をつく。

「慣れたくて慣れたんじゃねぇぞ?ったく…」
こんな思い、したくてしてるんじゃない。さっさと帰ってこい…。

「…そろそろ寝るか。」

もう遅いし、待っていれば戻ってくるというわけじゃない。もう寝てしまおうとベッドに向かうが…

(コンコン☆)

「フェルー起きてるか?」
「アリオン!?」

思いもよらず帰ってきたアリオンの声にドキッとしてしまう。出来るだけ平静を装ってドアを開ける。


「なんだ、いつもより早…」
「ハニー!ただいま☆」
「ぎゃあああぁ!!」

早速がばっとフェルナンドに抱き着いてくる。

「いきなりなんだ!貴様は?!」

引きはがして押し返す。と…

「…ん?」

何だかほんのりいい香りがする。

「…わかるか?」

アリオンが嬉しそうににこにこしている。


「…花の香り?貴様…どこに何しに行ってたんだ?」
「今年一番の梅の花を探しに行ってたんだ。明日ちょうど休みだろ?一緒に見に行こうぜ♪」

楽しそうな笑顔を浮かべて話す。

「貴様…わざわざそんなことのために出かけてたのか?」

少し驚いて聞き返すと。

「ああ…。お前、ちっちゃいころフォルカといつも春一番の花を探しに行ってたんだって?アルティスから聞いたぜ。
花…嫌いじゃないんだろ?」


意外な返答。
言われて思い出す、フォルカと一緒に春の花を探してはしゃいでたあの頃。春を告げる花に心和ませた。

「きっとまだ誰も見つけちゃいないぜ?見に行こう…二人で。」

ずっと忘れていた…春のワクワクする気持ち。それを、今度は友とではなくて、愛する漢と…。


「アリオン…」

そのために、一緒に花を見るために、わざわざ探しに出かけていたのか。
外はまだ寒いというのにこんな遅くまで…。


「しょうがねぇな…ここ数日いなかったぶん、埋め合わせしろよ?」

自分に寂しい思いをさせたこの漢がどうしようもなく愛しく見えて…その優しい視線に引き寄せられるように身を寄せた。


「もちろん、しっかりサービスするぜ。」

アリオンの腕がフェルナンドの背中に回される。
ずっと外にいたアリオンの身体はひんやりしていて…


「馬鹿ヤロウ…身体…こんなに冷えてるじゃねぇか…」
「…暖めてくれる?」
「…暖めてやるからじっとしてろ…」


けれど、いつもと違う、少し早い春の匂いがして…愛しくて強く抱きしめた。



春の花、一緒に見に行こう…他の誰でもない、お前と…







〜おまけ〜


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