「…ちっ」
フェルナンドはイライラしていた。
「…なんなんだよ…」
自分でも訳がわからずイライラしていた。
「…フェルナンド…」
「…なんだ?フォルカ」
「最近なんだか調子が悪そうだが、何かあったのか?」
相変わらず鋭い友の指摘。見抜かれるほど覇気が乱れてることに余計いらつく。
「うるせぇな!なんにもねぇよ!」
思わず怒鳴って、心配そうな友の視線から早足で逃げる。
「…なんでもねぇのに…どうしてこんなにいらつくんだ?クソッ…!」
フェルナンドが苛立ち始めたのは、アリオンがいなくなってからである。自ら自由戦士を名乗るアリオンは時折ふらりと姿
を消しては、またいつの間にか戻ってくることがよくあった。
かなりの実力もあり、修羅頭の地位にも付いていた彼だが、その地位を放棄して自由奔放にふらついている。
「往き先は風にきいてくれ」
格好をつけてそんなことを言うのがいつもだった。そのためもはや修羅の中でも治外法権を得て、今や誰もそんなアリオ
ンの行動を咎めたり気にする者もいなかった。
だが今は…アリオンの気まぐれな行動に大いに影響を受けてる者が一人いた。
「今までは…気にも留めなかったってのに…」
フェルナンドは自室に戻ってため息をついた。今までは、フェルナンドにとってアリオンはただの変わり者の修羅でしかな
かったし、気に留める相手でもなかったが、今は…
「…恋人…なんだろ?」
アリオンが言った言葉を借りるなら、そういう関係になるはずである。本人から言われてもいつも怒って否定してしまうフ
ェルナンドだが、それは気恥ずかしさからであって、彼もまたアリオンに情がわいているのは事実だった。考えれば考え
るほど思い出す…アリオンの声、笑顔、温もり。
「…あんな奴、もう知らん!」
自分の頭からアリオンのことを振り払うように言い捨てて、一人ベッドに潜り込む。
「うっ…」
と、意外なベッドの冷たさに驚く。ここにはない…アリオンの温もりが恋しくなる。
「…なんでいないんだよ、あの馬鹿…」
すっかりアリオンがいることに慣れてしまった自分が恥ずかしく、思わず悪態をつく。それでも消えない想いと、新たな悩
み…
「………」
イライラの一番の原因かもしれない。今まで知らなかった身体の疼き。身体の奥から熱くなる…今まで知りえなかった快
感。溺れてしまいそうなほど強く甘美な誘惑…。アリオンがちょっかいを出してくるからでもあったが、毎日のように身体
を重ね熱を交換するのが習慣になっていた。それが、アリオンがいなくなって、ここ数日間、熱い情交はご無沙汰。それ
だけで身体が疼いて仕方が
ない。あの快感を知らなければこんな身体の疼きも知らずに済んだだろうに…。
「こんな身体に…しやがって…」
思わず呟いて、自分の言ったことに赤面する。声に出してしまった言葉が恥ずかしくて、さっさと寝てしまおうと目を閉じ
るけれど、身体が熱くて寝付けない。
「ちっ…、少し頭冷やすか…」
仕方なくベッドから出ると、窓を開ける。ふと、夜風がフェルナンドの頬を撫でた。
「風…」
何気なく思い出した、アリオンの口癖。
『往き先は風にきいてくれ』
この風は彼の行方を知っているのだろうか?
「アリオン…」
何故だか切なくて、夜空を見上げる。ちりばめられた星々が寂しさの滲むフェルナンドの顔に静かな光を投げかける。
「……」
フェルナンドは立ち尽くしていた。すっかり身体は冷えていたが、もう少しこのままでいたいと思った。この風がアリオン
のいるところから吹いている気がしたから…。
「はぁ…俺、どうかしてるぜ…」
柄にもない乙女チックな妄想にため息をつきながら遠くを見る。
「…さっさと帰ってこいよな…」
普段誰にも見せないような切なげな表情で風に告げた。頬を撫でた風がまるで返事をするように、少し暖かく、優しく感
じられた。
終
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