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- ぬいぐるみに愛をこめて -





「…はぁ~」


フェルナンドは自分の部屋を見渡してため息をついた。いつの間にこんなに物が増えたやら、でかい箱(テレビと言うらしい)の周り
にぬいぐるみがそこかしこに並んでいる。

がさつだが元々綺麗好きであまり物に執着の無いフェルナンドはこんなに部屋に物を溢れさせることなど今まではなかった。

「あの野郎…」

そう、これらは全てアリオンが置いていったものである。洗面所にも洗顔料やら歯ブラシやらがちゃっかり増えているし。

「誰の部屋だと思ってるんだ。」

新しく持ってこられた水色のペンギンを摸したぬいぐるみを手で弄びながら呟く。
すっかり地球の文化になじんだアリオンは、ゲーセンのUFOキャッチャーでぬいぐるみをゲットする度に、戦利品なんだと言ってはフ
ェルナンドにプレゼントしにくるのだ。まるで彼女に貢ぎにくる彼氏のごとく。

「俺は女じゃねえんだからよ…」

やたらファンシーなぬいぐるみ達を眺めてため息をつく。その時、ドアをノックする音がする。


「フェルナンド、入るぞ。」
「ああ、来たかフォルカ。」
「部屋に呼び出すなんて、何の用だ?」

フェルナンドに呼ばれて来たフォルカは部屋に入ると小首を傾げて尋ねる。

「…とにかくこの部屋を見てくれ。」

フェルナンドがため息混じりに部屋を示す。


「…賑やかでいいな。」

一通りぬいぐるみだらけの部屋を眺めて微笑むフォルカ。

「部屋に溢れて困ってるんだ。お前、こういうの好きだろ?よかったら少し持っていってくれ。」

手に持っていたぬいぐるみをフォルカに投げ渡す。

「いいのか?」

フォルカはぬいぐるみを両手で受け止めると嬉しそうに瞳を輝かせて聞き返す。

「ああ、好きなの持っていけよ。」

「ありがとうフェルナンド。」

にっこり微笑むと早速ぬいぐるみの群れの
中に混じるフォルカ。嬉しそうにぬいぐるみを
一つ一つ手にとってみている。
立派な漢に成長しても幼いころと変わらない
双子の親友の笑顔に、フェルナンドもつられ
て微笑みながらフォルカを見ている。けれど


フェルナンドのベッドの側に置かれている一
際大きなぬいぐるみをフォルカが抱き上げる
と。

「これは…ひよこか?可愛いな…。」
「あ、それは…」

今まで一言も口を挟まなかったフェルナンド
が思わず声をあげる。

「…これは駄目なのか?」

フェルナンドの様子を察して、ひよこのぬいぐるみを元の場所に戻す。

「ん…ああ…それだけは、な…。」
「わかった。これは大事なものなんだな。」

フォルカは言い淀むフェルナンドに微笑みかけると、ひよこのぬいぐるみを一撫でして、また他のぬいぐるみを物色する。


「…」


複雑な表情を噛み殺すフェルナンドをよそに、フォルカは気に入ったぬいぐるみをいくつか抱えるとフェルナンドの傍へ。

「これだけ…もらっていってもいいだろうか。」
「あ、ああ…構わん。」

動揺を隠しつつ返事をすればフォルカの笑顔。

「ありがとうフェルナンド。」
「礼を言うのは俺の方だ。助かった。」

そうして挨拶を交わして、フォルカは自室へと戻っていった。


「…はぁ」

再び一人になり、本日何度目かのため息。ベッドへ戻ると、フォルカに渡すのをためらったひよこのぬいぐるみを見下ろす。

「こんなもん、くれてやってもよかったのにな…」

なのに何故ためらってしまったのか、大きなひよこのぬいぐるみを抱き上げ見つめる。

このぬいぐるみは、アリオンが初めて持ってきたぬいぐるみ。


『俺だと思って大事にしてくれよ』


アリオンはそう言ってフェルナンドに渡した。


「フン、別に嬉しかったわけじゃない。あんまりしつこいからもらってやっただけだ。」


ぼすっとぬいぐるみの頭を叩く。

「…奴だと思って叩けばストレス解消になるからな…それだけだ。」

ぼす!ぼす!今までも散々殴ったのかあちこちほつれている。

「アリオン…」

一瞬切なげな表情を見せるが、すぐにギンッと険しい顔になり

「なんでもかんでも人の部屋に置いていくな!!」

ドゴスッ!思いきりぬいぐるみを殴る。そして自らの拳で無残にへこんだぬいぐるみをすかさず抱きしめベッドに身体を投げ出す。

「…思い出しちまうだろうが…お前のこと…」

ひよこをぎゅっと抱きしめて目を閉じる。


まぶたの裏にアリオンの笑顔が見えた…ような気がした。













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