季節は春。とはいってもまだまだ寒さの残る空気は吐く息を白く染めて。それでも暖かい陽射しにウキウキする心を抑え
られずに駆け出す少年が二人。
「早く来いよー!フォルカ〜!」
「待ってよ〜フェルナンド!」
二人はアルティスの元で健やかに育ち、今日も仲良く遊びに出掛けている。血が繋がってないとはいえ、まるで双子の
兄弟同然。けれど二人の性格は少しずつ違う。フェルナンドは先にどんどん走っていく一方、フォルカは
「あ。」
何かを見つけて立ち止まる。
「フォルカ〜?何やってんだよ〜」
「ねぇ、これ見てよ、フェルナンド!」
フォルカに呼ばれてフェルナンドが戻ってくる。
「お…花か。」
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みちばたに小さなつぼみが顔をのぞかせていた。
「ねぇ、これ、兄さんが言ってたふきのとうじゃない
かな?」
「!春を連れてくる花ってやつだよな?!」
「そう、それ!」
「春が来たんだ!」
花を見つめて、二人で微笑む。
「…そうだ!これ、兄さんに見せにいこうぜ!」
フェルナンドが目をきらきらさせて提案する。
「いいね!きっと兄さん喜ぶ!」
嬉しそうにそれに同意するフォルカ。
「決〜まり!」
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フェルナンドは早速ふきのとうに手をのばす。が、
「あ!待ってよ!」
「なんだよ」
「ど、どうするの?」
フォルカがその手を引き止めて、おどおどしながら聞く。
「どうするって…持ってくんだろ?」
当然だろうという顔をするフェルナンドに対して、フォルカはもじもじしながら答える。
「…摘んだら花がかわいそうかなって…」
その返事に、怒りっぽいフェルナンドはすぐに声を荒げる。
「何いってんだよ!摘まなかったら兄さんに見せられないだろ!!」
それでもフォルカは必死に提案する。
「ねぇ、兄さんを連れてこようよ、そしたら…」
「兄さんはいそがしんだぞ!!そんな暇ないだろ!」
余計に苛立つフェルナンド、だからと言ってフォルカも引き下がらない。
「話せば分かってくれるよ!」
「だーかーらー!お前兄さんのこと好きじゃないのか?!」
大好きな兄さんのために考えてるのに、嫌がるフォルカにイライラしてそう聞き返す。
「好きだよ!だからふきのとうを見せたいんだ!」
フォルカだって兄さんの事が好きなのは何よりも大事な事実。ちょっと怒った声で返す。
「だから摘んでいけばいいだろ?!」
「それはイヤだ!」
それでも二人の意見は平行線のまま。フォルカも自分がこうと決めたことは変えるつもりはなくて。
「…このヤロウ!!」
ついにフェルナンドがキレて飛び掛かってくる。
「このぉ!」
フォルカも応戦する。こうなったら二人とも止まらない。普段から一緒に修行している同士、本気でぶつかり合う。お互い
の力は互角、つかみ合って転がって、泥だらけになって…。力で勝利し、思い通りにするのが修羅のやり方、二人の喧
嘩もどちらかが勝利するまで続く…かと思ったその時、
「おや、こんなところで修行中か?」
聞き慣れた声に二人はぴたりと動きを止める。
「あ。」
「に、兄さん…」
優しく厳しい眼差しが二人を捉える。二人の兄、閃光の修羅将軍アルティスがそこに立っていた。
「何か理由がありそうだが…何故こんなことになったのだ?」
静かな口調で、しかし有無を言わせぬ気迫を持って尋ねる。
「あ…その…」
「…これ…」
フォルカがふきのとうを指差す。
「ほう、ふきのとうか。」
それを見て微笑を浮かべるアルティス。フォルカがおずおずと話し出す。
「これを…兄さんに見せたくて…。」
「摘んで兄さんに見せに行こうとしたらこいつがイヤだって!」
すかさずフェルナンドも口を開く。
「摘んでしまったら花がかわいそうだもの!だから兄さんを呼ぼうと思ってたの…」
「こいつ、兄さんが忙しいことわかってないんだ!」
言い争いになりそうなところでアルティスの声が遮る。
「ふむ、お前達の言いたいことはわかった。とりあえず落ち着きなさい。」
長身のアルティスがしゃがんで二人の頭を撫でる。その途端二人ともおとなしくなり、純粋な瞳を信頼する兄に向ける。
「フォルカ、ふきのとうを摘むのはかわいそうだと言ったな。その優しい心を忘れてはいけないよ。」
「うん…!」
「フェルナンド…私を気遣って考えてくれたのだな。ありがとう。」
「うん!!」
アルティスは二人の顔を交互に見て続ける。
「そして…二人とも、私にふきのとうを見せたかったのだな?」
二人とも大きく頷く。
「私はふきのとうも、お前達の顔も見れてとても嬉しい。…もう喧嘩をする理由はあるまい?」
アルティスが微笑むと二人の顔がぱあぁっと明るくなる。
「兄さん!大好き!」
「俺のほうがもっと好きだ!」
二人してアルティスに抱き着く。アルティスは二人を優しく抱きしめて幸せそうに笑って言う。
「よし、それじゃあ二人とも。帰ってお風呂に入ろう。」
「わ〜い!お風呂♪」
「え〜!?風呂ぉ?」
喜ぶフォルカと嫌がるフェルナンド。
「すっかり泥だらけだからな、しっかり綺麗にしなくては。」
アルティスは二人をまとめて抱っこすると歩き出す。二人とも大好きな兄にしっかりとしがみつく。
少しずつ性格の違う二人…衝突もするけれど、アルティスに見守られ、お互いを認め合って、それは二人を大きく成長さ
せることになる。アルティスもそれが分かっているからこそ、二人の成長が楽しみなのだ。
<軍議の間>
「ええい、アルティスはまだか!?」
苛立った声を上げるミザルにメイシスが冷たい口調で返す。
「アルティス様なら今頃おちび達を風呂に入れてるぞ。」
「何ぃ!?大事な会議だというのに…あの子煩悩がっ!!」
(あぁっ…駄目なアル!)
アルティスをフォルカとフェルナンドの喧嘩現場に導いた張本人は心の中で身もだえるのでした(笑)
終
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